妙なる囁きに 耳を澄ませば
          〜音で10のお題より

 “心の音色"



夏の名残りの炎暑の中、
ああもう限界だと心から思った。
こうまでの疲弊の中で正気でいろというのかと、
如来でありながら、何かを呪いたくなったほどに、
何もかもが、ただただ恨めしかった。

 【 ご心配をおかけしました。瘴気は去りました。】

天界からであろう、ミカエルからの連絡を受けてすぐ、
アパートへ急ぎ戻ったその経緯をろくに覚えていないほど。
心持ちは比類なく高揚しつつも、
それと同じほど、冷めて尖った感情が
同じ胸の中に同座し、渦巻いてやまぬ。

 【 今からそちらまで、イエス様をお送りします。】

天界へ向かった折と同様に、
彼を抱えて戻って来るのだろう白翼の大天使らには、
浅ましくも咬みつきたくなってしまうかも知れぬと感じ、
その衝動を押さえるのがどれほどのこと大変だったか。

 「……。」

彼らが悪い訳じゃない。むしろ、よく立ち働いた方々だ。
どんな犠牲も厭わぬという心意気のまま、
即断果敢な行動力もて、
統括主管の的確な指示の下、
駆け回った彼らなのであることも、重々承知しているが。

  だが、その手前にて

私の眼前から、いともたやすく
イエスを連れ去った存在でもあるという
何とも直情的な感情が沸き上がってやまず。

 “……何と狭い料簡だろうね。”

連絡があったのが、陽の落ち掛かってた夕刻で。
それから1時間ほど経った宵の口。
再びの連絡があって、窓を大きく開けておれば、
ブッダという存在が目印になったのだろう、
雲間から一直線に降りて来た彼らであり。
意気揚々、凱旋気取りでいるのなら、
せいぜい凹ませてやろう、やり込めてやろうなんて。
捨て鉢になるあまり、
そんな意地の悪いことまでも、
その喉元まで出かかっていたはずが。

  “…………え?”

すっかりと面変わりしてさえ見えたほどに、
消耗し切っている姿で戻って来た彼を、迎え入れることとなって。
怨嗟にも近き妄執のたぎりが、
ブッダの中でするするとほどけ、氷解したのは言うまでもなくて。



    君は狡いよ。
    あんな突然、去ってしまって、
    置き去りにされた私が
    どれほど怖かったか辛かったか寂しかったか。
    それを うんと愚痴って拗ねてやろうと思ったのに。


    うん。


    そんなまで大怪我していちゃあ、
    責めることなんて出来ないじゃないか。


    えっと、ごめん。


    だからっ。
    謝らないでって言ってるのっ。



実際には一言も口に出さず、念さえ飛ばさず。
ほんの最初に かち合わさった視線でだけで、
とりあえず、
これだけのやり取りを交わしたお二人であった。






     ◇◇◇



清貧を絵に描いたような、何もない質素な六畳間。
取り急ぎ、掛け敷き ありったけのを敷き重ねられた、
せんべい布団製の簡易ベッドに横たえられた彼は、
途轍もない大病の最中ででもあるかのように消耗しきっており。
覇気が薄いというのじゃないが、
初めての水遊びを堪能した幼子のように、
そのまま いつだって眠りに落ちてしまいそうな危うさで、
ちょっぴりのぼせたような眸を
愛しい人へと向けて おっとりと微笑う。

 それだけならば
 こうまでの聖なる存在に囲まれているのだ、
 まだ問題はなかったが

単なる消耗だけではなくて、
顔やら首やら、腕に足にと、
あちこちへ巻き付けられた包帯やガーゼが
何とも痛々しい有り様であり。
蛍光灯の白々した明るみの中、
生気とは正反対な、凄惨さや不吉を強めるばかり。

 「…これは一体。」

躯体肉体を持つような、形のあった相手でなし、
直接掴み合った訳ではない筈だ。
その身に収めていた“光”で、
相手の負属性を相殺するという対処をしたと聞いており。
イエスの潜在的な“光力”は膨大なそれなので、
上手く引き出しさえすれば、
どんな瘴気であれ圧倒出来ると。
浄土界 天部の知恵者、梵天もまた、
さほどに案じることはないだろうと言っていた。

 とはいえ、現実というものは
 時に どんな理屈や想定もあっさり飛び越えてしまうもの

彼の対峙の場に居合わせ、実際に目の当たりにしたミカエルが、
イエスの傍居をラファエルに任せている間に
ブッダへ語ってくれたところによれば。
相殺という聖浄処置は、理屈で言うほど容易いことではない。
相対的にみて大きな差があるのなら、
それこそ、その威容をおびた手をかざすだけでも事は足りるが、
微妙に拮抗している場合は話は別であり。

 「こたびの相手は、
  単なる魔物や邪妖、妖異なんていう、
  この同じ次界に同居する存在ではなかったので。」

心や体に、呪いという、あるいは邪心という
闇を隠し持っている…どころじゃあない。
存在そのものが、隅から隅まで負属性でこしらえられており。
それを跡形もなく消し去らねばならないともなれば、
どれほどの対価が必要とされることか。

 「しかも、瘴気の塊は直接イエス様へ向かって来たのです。」
 「……っ。」

神の御子であるというスペック、
その身へ宿した神々しき熾光の、純度の高さが、
負属性には嗅ぎ分けやすかったということか。
しかも、ならば自身を滅ぼす要素だ、
何をおいても避けるはずが、逆に引き寄せられると誰が思おう。

 「皆して一斉に駆けつけましたが、
  イエス様は、助力を待つことなく、
  その身を広げてむしろ取り込もうとなさって。」

靄のような瘴気は、さながら濃密純正な“魔”そのもの。
それを全身で受け止めて、自身の身を使い浄化しようだなんて。
極端な言い方をすれば、
とんでもなく熱い蒸気の中に身を投じて、
自分の身で熱を奪う格好で冷ましたようなものであり。

 「まとわれた甲冑ごと、透明な炎に包まれたようにも見えて。
  それは苦しげになさっておられたのに、
  我らを近づけまいとする覇気まで繰り出されてしまっては。」

情けない話ですがとしつつ、ただただ見守っているしかなかった彼らでもあり。
万が一のための“煌熾光の陣”をしき、息を飲んで待ち構え。
すべてを抹消し終えたイエス様が、
意識もその身も投げ出されたの、それと受け止め、くるみ込み。
削られた聖なる光を補充しつつ、
御主が待つ神殿へ、一目散に翔って戻るしかなくて。

 「……っ。」

火傷に似た跡が、体中の前面のあちこちにあって。
いまだ痛々しくも爛れているものもあるのはそんなせい。
これでもラファエルを始めとする天使たちや、
もったいなくも御主の力をもそそぎて、出来得る限りの治療をしてある。
それこそ、これ以上をつぎ込むと、
却って体力負けするだろう限界ぎりぎりまで。

 「あとは“日にち薬”というやつで、
  体力をつけつつゆっくり療養し、
  自然治癒に任せるだけでいいのですが。」

その“療養”にしても、
天界で過ごせば、居るだけでぐんぐんと回復するだろう、
どこにいても聖なる癒しを満たした環境下だというに。
何なら父上様が傍近くにおいて、
完治するまでを見守ろうと仰せだったというに、

 『これでいいの、充分。』

意識が戻っての、身を起こせるまでは回復していると気づいた途端。
勝手に寝台から降り立っての
さっさかと自力で帰ろうとしかかったイエスだったそうであり。

 『あ、そうだ。預けた服を返して。』

それと、あとで返すから帰りの交通費を誰か貸してくれないかなと。
放っておいたらそんな痛々しい姿で、歩いて帰りかねなんだので。
判った、帰っていいからちょっと待ってと、
着て来た服はクリーニングし、痛み止めの頓服を調合し。
いいですね、戻ってもしばらくは起きてごそごそするのなしですよ、
ブッダ様にもようようお願い致しますが、
イエス様ご自身も必ず守って下さいませよと。
癒しを司る天使たち全員が涙目になって哀願した末に解放されたのだとか。

 「それで…なのですね。」

甲冑の下にまとっていた、
エルサレム風の筒袖シャツに筒袴のような下ばきという姿から、
どこの病院のお仕着せですかというような寝間着姿にされ。
ミカエルとラファエルに抱えられ、アパートまで戻された彼だったのであり。

 「身のうちまで及んでらした、
  重傷や炎症をこそ治癒してありますので。
  休養をとられること優先で、看護のほうお願い致します。」

ブッダ様もそれはご奮闘なされてお疲れかと思いますがと、
丁寧なご挨拶を述べ置いて、
二人の大天使らは、優雅な白翼を広げると、そのまま窓から発ってゆく。

 “松田さんに見つかるの、そんな怖いかな。”

これこれ、ブッダ様。(苦笑)
九月に入ってあちこちから秋めきの声が届くというに、
都内だけは炎暑がぶり返しての収まらず。
陽が落ちてあちこちから虫の声がする中でも、
夜気は仄かに湿っていてうとましい。
これも台風の影響なのか、
ちょっぴり強い生暖かい風が吹きつけては、
生け垣をたわませて、木葉擦れの音がザザザンと煩いくらい。

 「まったくもー。」

二人きりとなって、
真っ先に出たのが…やはり非難めいた声音だったのが我ながら情けない。
だが、どうしても言わずにおれなんだことでもあって。

 「どうして天界での治療を受けなかったの。」

空気も陽の光も、
水も風も緑も大地も(あ、雲かな?)それは清らかで。
極端な話、居るだけでも癒されるヒーリング属性だらけな場所だのに。
何が嬉しくてこんな、
ざわついているわ、空調も悪いわ、
助けてやれる人手も自分しかいないような。
こんな不自由なところへ、
何でどうして一刻も早くと戻りたがったんだいと。
他には誰もいないのだ、遠慮は要らないよということで、
わざわざ寝床のすぐ際まで戻ってくると、傍らに座り込み、
内緒話になっても聞けるよに構えたブッダ様だったのへ、

 「だって、私のおウチは此処だもの。」

それこそ“変なこと訊くねぇ”と言いたげな真顔で、
イエスはさらりと言い返してくる。

 「……。//////」

あまりの正論へ鼻白みつつ、
たじろいだブッダが唐突に思い出したのが、

 『私、これから……』

そうだそういえば、
イエスはあの惜別の折に こう言ってなかったか。

 『私、これから天界へ向かわなきゃならないんだ。』

帰るとも戻るとも言わず、
ただ“向かう”と言った彼であり。

 “あ…。///////”

そうだった、何で気がつかなかったんだろうと、
自分の迂闊さと、彼からの思い入れへとに想いが至り、
今更ながらの羞恥がブッダのお顔を赤らめさせる。
勿論、暗黙の符合だとか何だとかいう洒落たもののつもりなぞ、
まるきりなかったイエスに違いなく。

 “…敵わないよね、相変わらず。”

そんな言いようが自然に出る彼に引き換え、
自分はただただ不安ばかりを抱えて右往左往してはなかったか。
膝を抱えて寂しがってばかりいなかったか、
早く帰って来てとそればかりを願ってはなかっただろうか。
ああやっぱり自分はまだまだ未熟だと、
ブッダ様が消沈しかかっておれば。

 「これだけで済んだのは、
  ううん、あんな大きな瘴気を、
  私一人という身の丈で何とか出来たのは。
  ブッダの力があったからだよ?」

 「…え?」

そういえば、さっきミカエルもそんなようなことを言ってなかったか?
単なる、浄土側の者への挨拶代わりかと思っていたがと、
よく判らないよとばかり、ブッダがキョトンとして見せれば、

 「ものすごくたくさんのお祈りが
  頼もしいほど後押ししてくれていたのだけれど。
  そんな中でもブッダからの祈りが、
  私にはちゃんと見分けられたんだよ?」

 「そう…なんだ。///////」

それは痛々しい包帯姿だというに、
口元のお髭をハの字にし、
うふふぅと嬉しそうに、ともすれば誇らしげに微笑うイエスなのへ、
ブッダとしてはどんな顔をしていいのやらと戸惑うばかり。

 “だって、さ。///////”

自分の祈りだけ際立っていたのは、
単に他の如来と行動を共にしなかったからかも知れぬからで。

 『さあ、あなたも浄土へ来て下さい。』

既に法陣は組まれつつある。
地上への防御を担う陣は勿論のこと、
直接立ち向かっている天使たちへの助勢になるような
祈りの円陣も、天界にて構築されているからと。
梵天からも手を延べられての要請されたが、

 『いいえ、私は……。』

あんな去り方をしたくらいだ、
いつひょっこり戻るイエスかも知れぬから、
私はここで護法の祈祷を続けましょうと、頑なに言い張った。
濃い眉を引き上げた梵天から、

 『祈りなぞ弱者の寝言だくらいにお思いか?』

この期に及んでそうまで捨て鉢になったかと問われ、

 『まさか。』

祈りはどこにいたって捧げられるからと言い張りつつ、
だが、本心はやや我欲に偏っていたのかも。
真摯な祈りへの疑いなどという、傲慢な勘違いなぞしちゃあいない。
ただ、この場所から離れられないと切実に思った。
イエスの面影や声、温もりや匂いや、
いい癖に悪い癖、好きだったもの苦手なもの。
そういったあれこれがまだ温みをおびている中にいて、
いつ彼が戻って来ても、
去ったその先でとんぼ返りしたんだと勝手に思えるよう、
ちょっとした悪あがきがしたかった。
本当に、ただのそれだけだったのにね。

 「ここにいてくれてよかった。
  帰る帰るってだだこねて、でもブッダがいなかったらどうしよって。」

奇跡みたいに、それが凄く嬉しいと言わんばかりに、
えへへぇと子供のように屈託なく微笑うイエスだが。
そうならそうでミカエルたちが引き返しただけの事だろうにね。
そうとまでの先は要らないのだ、彼には。
だって、こうして逢えたのだから、そんな“もしも”なんて もう要らない。
徒に切なくなってもしょうがない。

 「あとね、ブッダの祈りは温かかったの。」
 「え…?」

そんな具体的なことまで、どうして判るものだろかと、
ブッダが深色の瞳を見開けば。
見分けられて当然だよねと、
やはり楽しそうに紡ぐ彼であり。

 「だって私、ブッダが大好きなんだもの。」

だから楽勝と、へろり笑うイエスだったのへ、

 「…。/////////」

すうと深々吸い込んだ清涼な空気のように、
その瑞々しくも無垢な優しさが胸元を洗ったそのまま総身へとゆき渡る。
双眸の奥がじわりと熱くなり、喉奥がぎゅうと苦しい。
取り澄ましてなんかいられないほど、嬉しくて辛くて。
今ここで壁に爪を立ててもがきたいほど、苦しくて切なくて。


  ああ、どうしようか、この人が愛おしくてたまらない。


畳へ敷かれていた嵩高な布団の傍らに正座していたブッダが、
彼には珍しくも足を崩すと、こちらの布団の端へと手をついた。

 「…ちょっと。」
 「? なぁに?」

ありゃ眠くなったのかなと、
大丈夫?と 慈しむような眼差しをイエスが向けておれば。
その目元を彼の手のひらで覆われてしまい。

 「ブッダ?」

ああ温かいなぁ、それに柔らかい。
大好きな手、優しくて何でも出来る手。
帰って来たんだなぁと、
しみじみ…していられたのは、ほんの数瞬のことで。
胸元近くへふわりと
何か温かいものが寄り添う気配。
肌が間近いと相手の体温がじかに触れてるくらいにちりちりと判る。
ちょうどそれと同じような、甘い熱が間近にあるのが感じられて。

 「ブッダ?」

何か内緒のお話かなと、
再度 声をかけるが返事はなくて。
手はそのままなのだし、居るはずなのにどうしたんだろう。
まさか、気が緩んだそのまま泣いちゃったのかなぁ。
私に見られたくなくて、こんなしたのかしら。
やっぱり勝手だったかなぁ、わたし…と
段々と気持ちが沈んで来かかったところへ、

  そおと、唇へ触れたものがあって

えっ、と
仄かに驚いたまま反射的に口が開きかかったけれど。
それを許してくれないほどに、食むような勢いで口唇を咥え込まれ。
真ん中から端、上と下とという隅から隅までを、
少しずつ角度を変えつつ、それは丁寧に。
そう、愛でてくれるような口づけをされているのだと、
気がつくまでに、数刻ほどかかってしまったイエスであり。

 “………………………あ。////////”

目許に蓋されたのは、視線が恥ずかしかったからか。
重みをかけぬようにと気遣いながらも、
こうまで近いのだ、覆いかぶさっている彼からの温みは伝わる。
優しい彼に総身をくるみ込まれているようで、それもまた幸せでならぬ。
甘いアプリコットの香りがし、それを掻き回す気配があって。
ブッダ愛用のシャンプーの香りが強まったので、
彼の螺髪がほどけたの、見なくてもありありと判って…。

 「……。////////」

ようやく唇が離れてから、一拍ほど空けて手が離れていって。
視野は開けたが、それでも しばし、呆然としていたものの。
大急ぎで座り直そうとしかかるブッダの身じろぎが、
そのまま立っていってしまうかもと思えて。
…実際、思い切りがよすぎたあおりを振り払うべく、
立ち上がる気満々だったらしいのを、
待ってと何とか手を伸ばしたイエスが引き留めれば。
その伸べられた腕からスルリとすべり落ちたのが、
痛々しくも赤く腫れていた跡へと巻かれていた包帯で。

  「え?」 × @

包帯替えの手際を浚うため、ブッダもこの箇所だけは見たから覚えている。
カサブタになりかかりの傷が残っていて、化膿させたら長引きますのでと、
ラファエルから注意されたはずなのだが、

 「治って、る?」

この年頃の男性らしい、やや骨っぽさが出た肉付きの腕は、
力を込めたせいで筋肉がやや力んで陰影を浮かしたものの、
特に問題もないままの、するんとした健やかな肌に覆われており。
よくよく見れば、うっすらと痕跡が判らぬでもないが、
そんな程度でなかったはずなのを ついさっき見たばかり。
だと思えば、この変化はもしかして…。

 「…………凄い凄いっ。
  ブッダ、ひざ枕や子守歌に続いて、
  ラファエルの立場なくしまくりじゃない。」

他に言いようはないのでしょうか、ヨシュア様。

 「あっ、いやそれはあのっ。////////」

ほらご覧。
ただでさえ謙虚なブッダ様が、
今 此処にいない癒しの天使様に気を遣ってあたふたしちゃったぞ。(笑)

 「うわあ、凄いもんだな…って、いたた☆」

腕の部分の負傷こそ目に見えて収まっても、
他はまだまだ安静が必要なままらしく。
居たたまれなかったはず、逃げ出そうとしかかっていたはずなのに、
ああほらと、ブッダからの気遣いの手が伸びる。
身を浮かせたからでは無さそう、
反射的に肩を縮めて見せたので、痛んだのは背中かなと手を差し入れて。
寝間着のしわが縒れて、段になっているのを引っ張って伸ばしてやれば、
その腕の半ばを わっしと上から捕まえられる。

 「え?」

少しでも俯くと、サラサラと零れ落ちる
ほどけた髪を片手で押さえつつ、
何だい?と無防備に眼下を見下ろせば。
それはそれは無邪気なお顔がリクエストvv

 「ブッダ、もーいっかいvv」
 「だ、だだ、ダメだって。//////」

君のおじさんの万能なはずの手当てがだけれどそれでぎりぎり限界だったように、今の君の体力へはそれが滋養であれあんまり強すぎるのも考えものでってラファエルさんもそう言ってたの君も聞いてただろうにいきなり何を言い出すかな もう…

何がとまでは言ってないのに、
焦りまくりで文言を並べるブッダだったのへ、

 「そういうんじゃなくて。」
 「ははは、はい?」

これでも彼なりに ちょっと照れているものか、
ふふふーと
目許をたわめての笑みを見せるイエスとしては。

 「ふつーのでいいから、ね?」

治療の効果がどうのではなくのキスをと
リクエストしているだけらしく。

 「う…。///////」
 「してくれないなら、こっちからしちゃうぞ?」
 「うう〜〜〜。///////」

再び背を浮かせて起き上がりかけ、
だが、痛った〜いと敢え無く沈没する彼なのへ慌て、
大丈夫?とのぞき込めば。
悪戯な双腕が下から えいっと伸びて来て、
まんまと捕獲された下ろし髪のお釈迦様がどうなったかは、
清かな夜気の中、虫たちの奏でだけが知ってる内緒……。




   〜Fine〜  13.09.05.


  *通常運転へお帰りなさいの巻でした。
   エヴァと ばさらを聞きまくりで書きました。
   前章だけならともかく、こっちもなんて、
   我ながら変な奴です、本当に。(笑)
   次で〆めです、もうちょっとお付き合いを。



                   次話
Canon (カノン) 

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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